株式会社LIXIL LIXIL
トステム
(別ウィンドウで開きます)
ビジネスユーザー向け

読んで、伝えて、つなげよう「暮らしココロ」

心地よい暮らしを楽しむための情報サイト

vol. 07

2011.1.7更新

暮らしのプロに聞きました

よく生きることは、よく食べること

料理研究家・フードプロデューサー 土井善晴 さん

土井善晴さん

プロフィール

土井善晴さん

料理研究家 フードプロデューサー
1957年、大阪生まれ。家庭料理の第一人者として知られる故・土井勝氏の次男。スイス、フランスにてフランス料理を、大阪の「味吉兆」にて日本料理を修業し、1992年に土井善晴おいしいもの研究所を設立。テレビ・雑誌などで家庭料理を指導するほか、日本料理店の商品開発、早稲田大学文化構想学部非常勤講師など人材育成にも尽力。また「真っ当な暮らしと食」「地方を応援する食文化」「食育」などをテーマに講演活動を行う。主著は「土井善晴 おかずのクッキング」(TV朝日出版/隔月発行)、「土井家の一生もん」(講談社)など。

基本は一汁一菜。日本料理とは本来、シンプルなもの

土井善晴さん 日本料理というと、「素材を活かす」、「季節感がある」といったイメージを持たれていると思います。私たち日本人の食文化の根底には、主食である米を作る暮らしがあり、農業からさまざまな行事や生活のリズムが作られ、日本人としてのアイデンティティを育んできました。もっと突き詰めれば、もともとは作物を育てたり釣りをしたりなど、働くことが食べることに直結していたんですね。食を生活の第一に置いていたからこそ、「食べることは、生きること」だと感じられていたのだと思います。

最近は、手数を加えること=料理であると思われている方が多いのではないでしょうか。調味料で味を調えるなど応用ばかりが取り上げられてしまって、料理がどんどん複雑になってしまっている。反対に、良いお米を手に入れたとしても、おいしくご飯を炊くための基本的な方法を知らなかったりしますよね。

実際の日本料理は、本来はもっとシンプルです。料理において大切なことは、料理自体が愛情であるということ。食べる人のために作るものであるから、過剰に味を付け加えたり見栄えをよくしたりするのはあまり必要のないことです。こと家庭料理においては、ごはんと具だくさんのお味噌汁、漬物の一汁一菜が、毎日続けても元気に生きていける必要最小限の単位です。極端な話、食事というのはそのくらいシンプルでもいいのですね。

自然をいただくのだから、おいしくないものもある

土井善晴さん とはいえ、「手を加えない」とは、手を抜く、時間をかけないということではありません。ロックやオペラの会場で川のせせらぎを聞き分けることができないように、濃い調味料と一緒だと、野菜本来の味わいを感じることができなくなります。あれこれ加えずにいただくことで、素材自体がもつ味に耳をすませることができるのです。

そもそも「おいしい」「おいしくない」という感覚も、料理の腕の問題ではなく、素材から感じ取ることです。自然にあるものをいただいているからこそ、固いものや水っぽいものもあったりする。「今日の白菜はおいしい」という感想から、「寒くなってきたから白菜が甘くなったのかな」とその理由を考えることができるし、反対においしくなかった理由も、「季節外れだからスカスカだ」「傷みかけていたからかな」などと捉えることができます。子どもも交えてそんな会話を日々重ねていくことで、季節の移ろいやおいしいってどういうことかが育まれていくと思うのです。

また、野菜炒めや刺身のように短時間で作ったものは、おいしさの続く時間も短いものです。煮物など時間をかけたものは、翌日までおいしさが持続します。時短=エコといった考えもありますが、料理によっては、短い時間で強火で手早く作ると、消化にも悪く味が傷ついてしまう場合があります。ご飯は体内に入り、文字通りからだを作っていくものであるからこそ、雑味の少ない丁寧な料理が、食べる人への愛情になるのです。

料理は、丁寧に生きることの証

土井善晴さん 健康志向のブームもあり、海外では日本食が注目され、日本でも食生活を見直そうという人が増えています。しかし、実際に世間で売れているものの多くは味が濃かったり、油をたっぷり使っていたり、食に対する理想と現実のギャップがまだ大きいように感じます。

料理を作り、ご飯を茶碗によそって食べるという行為は、顔を洗ったり掃除したりするのと同じく「自分の暮らしを作る」ことです。食事は“食べ事”であり、さまざまな家事=家でするべき事の基本事項ですから、「できるときにやればいい」ではなく、「やるべきこと」と心に決めることが大切です。

その第一歩として、ご飯を炊き、味噌汁を作るという一汁一菜から始めても良いと思います。料理を作ることは、生活ですべきことをきちんと行っていることの確認になりますし、毎日を丁寧に生きていることの証になります。さまざまな情報が氾濫する現代では、食べるものを選ぶ力こそが生きる力とも言えますので、料理に対する気持ちや姿勢が変わることで、新たな気付きがたくさん見えてくると思いますよ。

「日本の家庭料理独習書」

「日本の家庭料理独習書」
(高橋書店)

煮物、焼き物、揚げ物、
蒸し物からお浸し、吸い物、粥まで、
ベーシックから調理を学びたい方に向けて
家庭料理の基本75項目を解説。
さらに日々のおかず、お正月などの祝い料理など、
応用できる実践レシピも183品紹介しています。

ページのトップへ