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レポート&アンケート 2010年05月24日
ここに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がありますので、あらかじめご了承ください。
自立した入浴を一人でも多くの人に 「La・BATH (ラ・バス)『Yタイプ』」開発ストーリー
〜使い手と共に創るユニバーサル視点の開発プロセス〜
株式会社住生活グループ(社長:杉野正博)の事業会社である、株式会社INAX(社長:川本隆一)とトステム株式会社(社長:大竹俊夫)は、両社共同開発商品である戸建用システムバスルーム「La・BATH」の2010年モデルを4月1日に発売しました。新しい「La・BATH」は、「お掃除ラクラク」「操作もラクラク」の“Wラクラク”、節水・節湯・節電を実現する“先進のエコ機能”、“リフォーム対応の充実”の3つをキーワードに、さらなるラインナップの充実を図ったバスルームです。

それと同時に、子どもからお年寄りまで誰でも快適に入浴できるバスルーム「La・BATH 『Yタイプ』」も発売。浴室の出入りや入浴動作の安心安全はもちろんのこと、気持ちのゆとりも大切にしたい。そんな思いから開発された「Yタイプ」は、ユーザーによる検証を積み重ね、浴室にぐるりと一周まわした「フラットサポートバー」と、いったん腰掛けてから浴槽をまたいで入浴できる「腰掛け付サーモフタ」など、さりげなく身体を支えられるポイントを盛り込んだ商品です。

試作段階からユーザーに参加してもらい、ともにアイデアを形にした開発プロセスと、各々の特長を紹介します。
「La・BATH 『Yタイプ』」
「La・BATH 『Yタイプ』」
戸建用システムバスルーム 「La・BATH 『Y タイプ』」
本体標準仕様価格:1,328,000円
[税込:1,394,400円]
写真セット価格:1,588,500円
[税込:1,667,920円]
*取付費別途。
*セット写真に窓の価格は含まれません。
*「ラ・バス」2010年モデルは、現在北海道での発売はしておりません。
■「La・BATH(ラ・バス)『Yタイプ』」の特長
 浴室内の動線をつなげる四方に回った「フラットサポートバー」と、折りたたんで収納できる「腰掛け付サーモフタ」を標準装備。
一人でも多くの方が入浴できるよう“動作をつなぐ”ために細かい器具のレイアウトにも配慮し、浴室に入ってから出るまでの回遊性を確保しています。
「La・BATH(ラ・バス)『Yタイプ』」の特長

1.動線をつなぐ「フラットサポートバー」
握力が弱い方でも手をついてしっかり身体を支えられるよう手すりの上面をフラットに。また、握った手がぐらつくのを防ぐため、前面にもフラットな面を設け、背面はしっかり握れるように手のひらに沿った形になっています。色はホワイトとブラウンの2色。
動線をつなぐ「フラットサポートバー」 動線をつなぐ「フラットサポートバー」

2.座って入浴できる「腰掛け付サーモフタ」
 浴槽をまたぐとき片足立ちになるのが不安な場合、浴槽に掛け渡した「腰掛け付サーモフタ」にいったん腰掛けてまたぐと身体が安定するので、ラクに入浴できます。壁に取り付けた固定部材でズレたりしないので安心です。
座って入浴できる「腰掛け付サーモフタ」
● 浴槽に入る場合の手順
いったん腰掛けます
(1)いったん腰掛けます
片足ずつ浴槽に入れます
(2)片足ずつ浴槽に入れます
中央に浅く座りなおします
(3)中央に浅く座りなおします
折りたたみできる構造なので、使用しないときはたたんで収納でき、置く場所に困りません。 フタ本体と固定部材は簡単に取り外せ、お掃除も簡単です。
パタパタたたんで、壁際にスッキリ収納。フックで倒れも防止します。 パタパタたたんで、壁際にスッキリ収納。
フックで倒れも防止します。
■ 開発の背景
国の医療費削減や、医療福祉施設の数不足などを背景に、高齢者も自宅での自立した生活を求められるようになってきています。これまでにも出入り口の段差解消や浴槽のまたぎこみ高さ、器具のレイアウトなどに配慮し、安心・快適に入浴できるバリアフリーな浴室を提案してきましたが、さらなる「入浴の自立」をめざし、浴室を使用する想定ユーザーの範囲を「つたい歩き」の方まで広げることにしました。
「シニアのリフォームに対応できる、動線や使いやすさを考えた水まわりの総合メーカーならではの提案をしよう」と、2008年の夏、ユニバーサルデザイン商品の技術開発に携わるINAX総合技術研究所と、INAX・トステムの開発チームのデザイナー、企画担当者が、それぞれの担当商品の壁を越えて集まり、新しい浴室空間をつくる取り組みがスタートしました。
ワーキング活動は、まず自分たちが高齢者擬似体験キットで手足が自由に動かない状況をつくって既存品を使ってみる、実寸スケールのラフモデルを使ってみるなど、高齢者や障がいのある状態に近い形で体験し理解を深めることから始め、「頭で考えること」と「体で感じること」のギャップを埋めていきました。
2008年8月 疑似体験
2008年8月 疑似体験
■ 初の試み、ユーザー参加型の検証
ワークショップ形式をとった検証では、片まひの方、膝に疾患のある方、健常高齢者の方に開発の段階から関わっていただきました。発売間近になって確認としてのモニターはこれまでにも行っていましたが、試作段階から繰り返し検証に参加してもらうのは水まわり商品では初めての試みでした。
今回の検証で特にこだわったのは、(1)お湯を使って、実際の浴室に近い条件で検証すること、(2)脱衣〜洗体〜入浴、退室までの「一連の動作」を見ること、(3)ユーザーの動作に合わせて、その場で試作をつくり変えていくこと。入浴動作を観察して、その動作をサポートする試作をつくり、それを同じユーザーで再び評価してもらう、「これでは使いづらい」ということになれば、その場で削ったり寸法を変えたりして、想像だけで作った形から実際に使えるものに変えていくことを何度も繰り返しました。
ユーザーによるモデル検証
2008年9月
ユーザーによるモデル検証
ユーザー自宅観察
2008年10月
ユーザー自宅観察
通水検証
2008年12月
通水検証

● 協力者:47名 ● 検証期間:2008年9月〜2010年1月 ● 検証回数:10回
● 身体状況:片まひ、膝痛、健常高齢者、健常若年者、子ども(幼児〜70才代)
■ 動きをつなぐ「フラットサポートバー」が誕生
検証を繰り返すなかで、動線をつなぐためには横に連続する「何か」があることが有効だということが見えてきました。健常者であれば入り口から洗い場まですぐに辿りつけますが、つたい歩きユーザーはドアを開けて一歩進もうとすると、「さて、どこに掴まれば良いのか?」となってしまう。でもそこに、浴室に入ってから出るまで横に連続した手すりがあれば、身体状況や習慣に合わせてつかまりやすい箇所を選んで前に進めることがわかりました。
「フラットサポートバー」が誕生した瞬間です。しかし、浴室の全ての壁にぐるりと回った手すりを、空間に違和感なく溶け込ませることには苦心しました。はじめは「手すり」でなくても、桟や収納棚のようなものがあれば、そこに手を置いて(身体を預けて)移動できるのではと考えました。しかしモデルを作って検証してみると「やっぱり、しっかり掴めないと怖い、不安だ」という声が多く、「しっかり掴める手すり」が求められていると分かりました。

40パターンものモデルをつくり比較するなかで導き出されたデザインは、断面形状が縦長の四角いプロポーションで、すっきりと空間になじみやすいものになりました。握力の弱いユーザーでも手をついて身体を支えられるよう手すりの上面をフラットにし、握った手がぐらつくのを防ぐために前面にもフラットな面を設け、背面は手にフィットするようカーブを持たせました。カラーは、どんな壁色ともコーディネートしやすいホワイトと、木目調のダークなブラウンの2色を用意し、壁色と組み合わせて空間になじませることも、コントラストをつけて見やすくすることも、どちらも選べるようにしています。
動きをつなぐ「フラットサポートバー」が誕生  
■ 自立入浴をサポートする「腰掛け付サーモフタ」
ユーザー検証で、立って浴槽をまたぐのが難しい方でも、ある程度広い座面があればひとりで座ってまたげることが分かってきました。既存の高齢者配慮浴槽のように、浴室内寸を小さくしてフランジを広く取ったものにすると、身長の高い人は十分に足が伸ばせなくなってしまいます。そこで、浴槽の上にボードを渡して移乗台とする方向性を決め、検討に着手しました。
満たすべき要件は「人が乗ってもたわまない」「浴槽形状によらず確実に固定できてズレない」「表面は滑り過ぎず、滑らなさ過ぎない」「使わないときは簡単に収納可能」「通常の風呂フタのように片手でも扱える」「フラットサポートバーと干渉しない」「保温性能確保」「お手入れのときは簡単に外れる」と難題揃い。企画、デザイン、設計担当者が一緒になって基本構成を決めるために100パターン近くものアイデアを出し、実際の製品と同じ重量を持たせたモデルをいくつも作って収納方法と固定方法を練り上げていきました。
課題の中でも特に難しかったのは、風呂フタと移乗台を兼用させることでした。兼用させれば同居する家族も、使わないときに邪魔にならなくてすみます。最終的に商品となったパタパタたたむ収納方法は、比較的早い段階からアイデアとして出ていましたが、フタとフタのつなぎ目部分など技術的なハードルが高く、はじめは本命ではありませんでした。しかし、他の候補では必要条件をどうしても満たせないため、この方式で試作を繰り返し完成に至りました。
自立入浴をサポートする「腰掛け付サーモフタ」  
パタパタたたむだけ、壁紙にスッキリ収納、フックで倒れ防止
また、高齢者は視力の低下や、目に障害を抱えるケースも増えてくるため、腰掛けられる「腰掛け付サーモフタ」と通常の「風呂フタ」との違いが分かりやすいように色分けをしました。色みを抑えたモノトーングレーでコントラストをつける工夫をしています。 自立入浴をサポートする「腰掛け付サーモフタ」  
加えて、「腰掛け付サーモフタ」は固定部から本体が取り外せるのはもちろんのこと、壁固定部も取り外して手元で掃除ができる仕様とし、フタの収納性を高めるのと同様に、移乗台として使用するフタ部分の「お手入れのしやすさ」にも配慮しました。 取り外し簡単、壁固定部も取れる、サッと拭ける  

こうして、一人でも多くの自立入浴をサポートできる仕様を目指した「La・BATH(ラ・バス )『Yタイプ』」が誕生しました。
■ 開発メンバーの声
企画担当:トステム 商品本部 住器・建材統轄部 バスルームグループ 中野悟和
 「つたい歩きの方まで快適に入れる浴室」という命題を掲げて開発がスタートしましたが、当初は「片まひ」という言葉にさえなじみがなく、何から手を付けて良いのか全くわからない状態でした。
そんな中で自分の中で一つ確信を得たきっかけがあります。それは、ある片まひの方の実際の入浴行為を取材させていただいたビデオを見た時でした。配管がむき出しの蛇口につかまりながら移動し、巻きフタに腰を掛けて浴槽に入る様子を目の当たりにし、「これは危ない、何とかしなくては」という思いと、「風呂フタが使える」という確信でした。風呂フタは面積が大きく置き場所に困るものですが、無いと困るものです。もしこれに腰掛けできる機能があれば一石二鳥です。
開発メンバーの声  
手すりも必要なのはわかっていましたが、手すりだらけの雑然とした空間は許せません。そんな経緯で、「座れる風呂フタ」「空間になじむ存在感のない手すり」という無理難題に取り組むことになりました。しかし無理なテーマでもあきらめずに取り組むと解決策が出てくるもので、何とか「Yタイプ」の発売にたどり着きました。メンバーの熱意と、検証に参加していただいた方々の多大な協力の賜物です。
デザイン担当:INAX 浴室事業部 商品開発部 商品企画課 デザイングループ長 山本幸二
難しかったのは「安全」と「(福祉機器に見えない)さりげなさ」の両立でした。対象はつたい歩きでひとりでも入浴できるユーザーだったので、いかにも介護向けで抵抗を感じるような商品にはしたくなかった。インテリアに対するこだわりや一緒に住んでいる家族のことも考えれば、作り手側がとにかく安全が一番と決めつけてしまうのは違うと感じていました。
ユーザー参加型検証の手法を用いた開発は今回が初めてでしたが、目の前にいるユーザーが使いやすいかどうかという目標が明確で、それを達成しようというモチベーションは設定しやすかった。身体をどう動かせば、いま持っている力をうまく引き出せるのか。そのメカニズムを理解するとだんだん解決策が見えてきました。お湯を足すと浮力で浴槽から立ち上がりやすくなることなども初めて知り、瞬間瞬間が、目からうろこが落ちるようでした。
デザイン担当:INAX 浴室事業部 商品開発部 商品企画課 デザイングループ長 山本幸二  
さりげなさというのはデザインの中でも一番大事なところなので、今回の「Yタイプ」はまだまだ満足なものとはいえません。課題は圧倒的に多く、安全性とデザインのバランスをどうとるのか、これからも自分のなかで問い続けていきたいと思います。
設計担当:トステム 商品本部 住器・建材統轄部 バスルームグループ 岡崎志朗
 「腰掛け付サーモフタ」をパタパタたたむ収納方式で進むと決めてからも苦労しました。「風呂フタ」「移乗台」の機能に加え、「折りたたんで立てかける」機構を安全な形状でつくりあげていくのは難題でした。
座るからには安全でなくてはなりません。フタの折れる部分の接続にはちょうつがいなどの金具も候補に上がりましたが、肌に触れるのは危ないということで、最終的には軟質の部材でつなぎました。安全な固定方法についても同様に試行錯誤しながら進めていきました。アイデアに行き詰る場面もありましたが、自社の浴室に合わせて形状を設計できるという点は総合メーカーの強みなので、結果的にはシンプルで使い勝手の良い仕様にできたと思います。
設計担当:トステム 商品本部 住器・建材統轄部 バスルームグループ 岡崎志朗  
ユニバーサルデザイン技術担当:INAX 総合技術研究所 空間技術開発室 鶴田博美
ユニバーサルデザイン技術担当:INAX 総合技術研究所 空間技術開発室 鶴田博美 開発の当初からユーザー検証を繰り返すという手法にトライしたのは今回が初めてで、検証の場のセッティングから開発のサポートをスタートさせました。これまでは、商品化を前提としていない研究的な実験や、逆に発売間近になって確認のために行うモニターなど、検証に参加したユーザーが仮に改善提案したとしても反映されることなく終わるパターンがほとんどでした。しかし今回は試作段階で意見でき、次の検証ではそれが反映され、最終的には商品という姿に結実していく。協力するユーザー側のモチベーションの向上という面でも非常に効果が高かったと感じています。
「ユニバーサルデザイン」という言葉を使わなければ、使い手への配慮を大切にした商品づくりは難しい時代だと感じていますが、特別扱いしなくても、INAXデザインといえば多くのユーザーへの配慮がキチンとなされているもの。そうした姿を目指していきたいと思います。
■ 検証にご協力いただいた方の声
中高年中途障害者の生きがいづくり「向日葵くらぶ」岡田敏男さん
1年以上かけて検証に繰り返し参加し、座りまたぎの動作をしやすくするために座面の奥行き寸法を変えるなど、試作段階で協力できるのは他では考えられないことで、とても有意義な経験でした。「たとえ私にとって使いやすくても、同居している家族にとって使いにくいものになっては意味がない」と商品のあり方についても踏み込んで議論しました。「腰掛け付サーモフタ」は面白い商品になったと思います。
検証にご協力いただいた方の声  
■ 専門家の声
国際医療福祉大学大学院 工学博士 野村歓教授
今回の取り組みは、「片まひ」など多様なユーザーとの協働関係をベースに、実際にお湯を使った入浴実験を通して、製品開発に向けての多くの知見を得ていくプロセスにあります。また、人間工学、理学療法、建築の専門家が同時に関与した点も評価できるでしょう。このように徹底して浴室実験のあるべき姿を追求した経験は私自身も初めてで、継続的な取組みとさらなる展開を期待したい(談)。
専門家の声  

ユーザー検証を通して作り上げたこれらのアイテムを、少しでも早くお客さまにお届けしたいと考え「La・BATH『Yタイプ』」を商品化しました。けれどこれはゴールではなく、スタートに過ぎません。商品をより永く使っていただくためにも、購入するときの問題解決だけでなく、時間の経過とともに起こってくる家族構成や身体状況の変化への対応も課題ととらえ、今後も継続して市場に求められる商品づくりに取り組んでいきます。
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