● 浴槽に入る場合の手順 |
(1)いったん腰掛けます |
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(2)片足ずつ浴槽に入れます |
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(3)中央に浅く座りなおします |
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折りたたみできる構造なので、使用しないときはたたんで収納でき、置く場所に困りません。
フタ本体と固定部材は簡単に取り外せ、お掃除も簡単です。 |
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パタパタたたんで、壁際にスッキリ収納。
フックで倒れも防止します。 |
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■ 開発の背景
国の医療費削減や、医療福祉施設の数不足などを背景に、高齢者も自宅での自立した生活を求められるようになってきています。これまでにも出入り口の段差解消や浴槽のまたぎこみ高さ、器具のレイアウトなどに配慮し、安心・快適に入浴できるバリアフリーな浴室を提案してきましたが、さらなる「入浴の自立」をめざし、浴室を使用する想定ユーザーの範囲を「つたい歩き」の方まで広げることにしました。
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「シニアのリフォームに対応できる、動線や使いやすさを考えた水まわりの総合メーカーならではの提案をしよう」と、2008年の夏、ユニバーサルデザイン商品の技術開発に携わるINAX総合技術研究所と、INAX・トステムの開発チームのデザイナー、企画担当者が、それぞれの担当商品の壁を越えて集まり、新しい浴室空間をつくる取り組みがスタートしました。
ワーキング活動は、まず自分たちが高齢者擬似体験キットで手足が自由に動かない状況をつくって既存品を使ってみる、実寸スケールのラフモデルを使ってみるなど、高齢者や障がいのある状態に近い形で体験し理解を深めることから始め、「頭で考えること」と「体で感じること」のギャップを埋めていきました。
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2008年8月 疑似体験 |
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■ 初の試み、ユーザー参加型の検証
ワークショップ形式をとった検証では、片まひの方、膝に疾患のある方、健常高齢者の方に開発の段階から関わっていただきました。発売間近になって確認としてのモニターはこれまでにも行っていましたが、試作段階から繰り返し検証に参加してもらうのは水まわり商品では初めての試みでした。
今回の検証で特にこだわったのは、(1)お湯を使って、実際の浴室に近い条件で検証すること、(2)脱衣〜洗体〜入浴、退室までの「一連の動作」を見ること、(3)ユーザーの動作に合わせて、その場で試作をつくり変えていくこと。入浴動作を観察して、その動作をサポートする試作をつくり、それを同じユーザーで再び評価してもらう、「これでは使いづらい」ということになれば、その場で削ったり寸法を変えたりして、想像だけで作った形から実際に使えるものに変えていくことを何度も繰り返しました。
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2008年9月
ユーザーによるモデル検証 |
2008年10月
ユーザー自宅観察 |
2008年12月
通水検証 |
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● 協力者:47名 ● 検証期間:2008年9月〜2010年1月 ● 検証回数:10回
● 身体状況:片まひ、膝痛、健常高齢者、健常若年者、子ども(幼児〜70才代)
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■ 動きをつなぐ「フラットサポートバー」が誕生
検証を繰り返すなかで、動線をつなぐためには横に連続する「何か」があることが有効だということが見えてきました。健常者であれば入り口から洗い場まですぐに辿りつけますが、つたい歩きユーザーはドアを開けて一歩進もうとすると、「さて、どこに掴まれば良いのか?」となってしまう。でもそこに、浴室に入ってから出るまで横に連続した手すりがあれば、身体状況や習慣に合わせてつかまりやすい箇所を選んで前に進めることがわかりました。
「フラットサポートバー」が誕生した瞬間です。しかし、浴室の全ての壁にぐるりと回った手すりを、空間に違和感なく溶け込ませることには苦心しました。はじめは「手すり」でなくても、桟や収納棚のようなものがあれば、そこに手を置いて(身体を預けて)移動できるのではと考えました。しかしモデルを作って検証してみると「やっぱり、しっかり掴めないと怖い、不安だ」という声が多く、「しっかり掴める手すり」が求められていると分かりました。
40パターンものモデルをつくり比較するなかで導き出されたデザインは、断面形状が縦長の四角いプロポーションで、すっきりと空間になじみやすいものになりました。握力の弱いユーザーでも手をついて身体を支えられるよう手すりの上面をフラットにし、握った手がぐらつくのを防ぐために前面にもフラットな面を設け、背面は手にフィットするようカーブを持たせました。カラーは、どんな壁色ともコーディネートしやすいホワイトと、木目調のダークなブラウンの2色を用意し、壁色と組み合わせて空間になじませることも、コントラストをつけて見やすくすることも、どちらも選べるようにしています。 |
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■ 自立入浴をサポートする「腰掛け付サーモフタ」
ユーザー検証で、立って浴槽をまたぐのが難しい方でも、ある程度広い座面があればひとりで座ってまたげることが分かってきました。既存の高齢者配慮浴槽のように、浴室内寸を小さくしてフランジを広く取ったものにすると、身長の高い人は十分に足が伸ばせなくなってしまいます。そこで、浴槽の上にボードを渡して移乗台とする方向性を決め、検討に着手しました。 |
満たすべき要件は「人が乗ってもたわまない」「浴槽形状によらず確実に固定できてズレない」「表面は滑り過ぎず、滑らなさ過ぎない」「使わないときは簡単に収納可能」「通常の風呂フタのように片手でも扱える」「フラットサポートバーと干渉しない」「保温性能確保」「お手入れのときは簡単に外れる」と難題揃い。企画、デザイン、設計担当者が一緒になって基本構成を決めるために100パターン近くものアイデアを出し、実際の製品と同じ重量を持たせたモデルをいくつも作って収納方法と固定方法を練り上げていきました。
課題の中でも特に難しかったのは、風呂フタと移乗台を兼用させることでした。兼用させれば同居する家族も、使わないときに邪魔にならなくてすみます。最終的に商品となったパタパタたたむ収納方法は、比較的早い段階からアイデアとして出ていましたが、フタとフタのつなぎ目部分など技術的なハードルが高く、はじめは本命ではありませんでした。しかし、他の候補では必要条件をどうしても満たせないため、この方式で試作を繰り返し完成に至りました。
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また、高齢者は視力の低下や、目に障害を抱えるケースも増えてくるため、腰掛けられる「腰掛け付サーモフタ」と通常の「風呂フタ」との違いが分かりやすいように色分けをしました。色みを抑えたモノトーングレーでコントラストをつける工夫をしています。 |
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加えて、「腰掛け付サーモフタ」は固定部から本体が取り外せるのはもちろんのこと、壁固定部も取り外して手元で掃除ができる仕様とし、フタの収納性を高めるのと同様に、移乗台として使用するフタ部分の「お手入れのしやすさ」にも配慮しました。 |
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こうして、一人でも多くの自立入浴をサポートできる仕様を目指した「La・BATH(ラ・バス
)『Yタイプ』」が誕生しました。
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■ 開発メンバーの声 企画担当:トステム 商品本部 住器・建材統轄部 バスルームグループ
中野悟和 |
「つたい歩きの方まで快適に入れる浴室」という命題を掲げて開発がスタートしましたが、当初は「片まひ」という言葉にさえなじみがなく、何から手を付けて良いのか全くわからない状態でした。
そんな中で自分の中で一つ確信を得たきっかけがあります。それは、ある片まひの方の実際の入浴行為を取材させていただいたビデオを見た時でした。配管がむき出しの蛇口につかまりながら移動し、巻きフタに腰を掛けて浴槽に入る様子を目の当たりにし、「これは危ない、何とかしなくては」という思いと、「風呂フタが使える」という確信でした。風呂フタは面積が大きく置き場所に困るものですが、無いと困るものです。もしこれに腰掛けできる機能があれば一石二鳥です。
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手すりも必要なのはわかっていましたが、手すりだらけの雑然とした空間は許せません。そんな経緯で、「座れる風呂フタ」「空間になじむ存在感のない手すり」という無理難題に取り組むことになりました。しかし無理なテーマでもあきらめずに取り組むと解決策が出てくるもので、何とか「Yタイプ」の発売にたどり着きました。メンバーの熱意と、検証に参加していただいた方々の多大な協力の賜物です。 |
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デザイン担当:INAX 浴室事業部 商品開発部 商品企画課 デザイングループ長 山本幸二 |
難しかったのは「安全」と「(福祉機器に見えない)さりげなさ」の両立でした。対象はつたい歩きでひとりでも入浴できるユーザーだったので、いかにも介護向けで抵抗を感じるような商品にはしたくなかった。インテリアに対するこだわりや一緒に住んでいる家族のことも考えれば、作り手側がとにかく安全が一番と決めつけてしまうのは違うと感じていました。
ユーザー参加型検証の手法を用いた開発は今回が初めてでしたが、目の前にいるユーザーが使いやすいかどうかという目標が明確で、それを達成しようというモチベーションは設定しやすかった。身体をどう動かせば、いま持っている力をうまく引き出せるのか。そのメカニズムを理解するとだんだん解決策が見えてきました。お湯を足すと浮力で浴槽から立ち上がりやすくなることなども初めて知り、瞬間瞬間が、目からうろこが落ちるようでした。
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さりげなさというのはデザインの中でも一番大事なところなので、今回の「Yタイプ」はまだまだ満足なものとはいえません。課題は圧倒的に多く、安全性とデザインのバランスをどうとるのか、これからも自分のなかで問い続けていきたいと思います。 |
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設計担当:トステム 商品本部 住器・建材統轄部 バスルームグループ 岡崎志朗 |
「腰掛け付サーモフタ」をパタパタたたむ収納方式で進むと決めてからも苦労しました。「風呂フタ」「移乗台」の機能に加え、「折りたたんで立てかける」機構を安全な形状でつくりあげていくのは難題でした。
座るからには安全でなくてはなりません。フタの折れる部分の接続にはちょうつがいなどの金具も候補に上がりましたが、肌に触れるのは危ないということで、最終的には軟質の部材でつなぎました。安全な固定方法についても同様に試行錯誤しながら進めていきました。アイデアに行き詰る場面もありましたが、自社の浴室に合わせて形状を設計できるという点は総合メーカーの強みなので、結果的にはシンプルで使い勝手の良い仕様にできたと思います。
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ユニバーサルデザイン技術担当:INAX 総合技術研究所 空間技術開発室
鶴田博美 |